読書メモ 教科書が読めない子供たち
「AI vs. 教科書が読めない子供たち」著 新井紀子
前半は現在のAI技術の基本的な仕組みと、東ロボくんが東大受験攻略に挑んだ結果などがAI技術に素養がないひとでも比較的わかりやすく解説してあります。
後半では、著者が東大受験プロジェクトの経験と、並行して参加していた数学学会の大学生調査で発見した「問題文が理解できない学生」についての調査を通じて、AI時代を楽観視する姿勢について警鐘を鳴らしています。
気になった言葉など
(現状の)AI技術にできることの限界は数学で表現できることの限界
AIの得意分野は
-統計
-論理
-確率
この三つで解けるような問題は、人間よりもAIの方が圧倒的に得意。
人力でこの三つを行なっているような職業が、「AIで容易に置き換え可能」な職業。
昨今ディープラーニングの導入等で自動翻訳の技術が格段に向上しているが、
技術的には膨大な学習データを用いて、統計的に最もそれっぽい訳を表示しているに過ぎない。
翻訳技術の向上で英語力の習得が不要になるというようなことを言う人が居るが、
まだしばらくは、本人に全く英語力がなくても乗り切れるのはせいぜい旅行程度で、
アカデミック/ビジネス以上の英語技術についてはAIを用いるよりも自身で身につけた方が
効率が良い、というのは変わらなそう。もちろんAIはよいアシスタントとして機能してくれるとは
思う。
数学ができないのか、問題文が理解できないのか
この調査結果は日常経験と照らし合わせても非常に納得感がある。
「ケアレスミス」と「深刻な誤答」の圧倒的な差
数学力調査として、大学生(受験直後の新一年生)に課されたのは以下のような問題
偶数と奇数を足すと、答えはどうなるでしょうか。その理由を説明してください。
これに対する深刻な誤答は以下のようなもの。
・2+1=3, 4+5=9のように。
・全部やってみたらそうなった。
・偶数と奇数にするためには、偶数を足してもダメだが、奇数を足せば良い。
・三角と三角を足したら四角になるのと同じで、三角と四角を足しても四角にはならないから。
なお、この調査が物語っているのは「今の子供達の理解力がやばい」ということでは決してない。
私たちの社会には、すでにこのようなヤバい理解力の大人が一定数存在していることを示唆している。
(ゆとり教育だなんだという多少の変化はありつつも、日本の教育で教えていることには世代間で大きな差はないため)
このような「深刻な誤答」には、実は私たち社会人が、会社生活においてもしばしば遭遇している。
例えば、
「なぜ今回の契約がまとまらなかったのか教えてください」
これに対する深刻な誤答は以下のようなもの。
「先方が...契約しないって連絡してきたんです...」
これは夫の体験談なのだが、 答えている相手は大真面目で、決してふざけているわけではない。
“大人なのに話が通じない相手が存在する”というというのは実感がある人が多いのでは。
本書では、問題文を正確に理解する力「読解力」を軸に、中高生に対してさらに大規模な調査をおこなっており、その結果は非常に興味深い。
AIと教科書が読めない子供(大人)たち の勝敗は
現状のAI技術ができないこととして著者は「意味の理解」を上げている。読解力である。 ざっくりと、これができない人、これが不要な職業はAIに代替される危険性が高い。
余談
ここからは本とあまり関係がない余談。
運良く所属企業がAIを採用せず、企業内で代替を免れたとしても、人海戦術で圧倒されるような仕事は近く日本から失われる危険性が高い。
年金データ再委託「SAY企画」従業員が証言「入力ミスは日本でやったもの、中国業者は正確だった」
最近問題となった年金データ入力業務で、中国企業よりも日本企業のほうがアウトプットの質が悪かったという話がある。
「質で中国に負けた」ということに衝撃を覚えている人が多くいるようだが、報道されている内容を確認するだけでも、何も驚くようなことは起こっていないことがわかる。
- 機構の指定は、「二人一組で手入力し、全件ダブルチェックする」
- データの件数が超膨大
この仕事内容に対し、発生した問題は以下のようなもの
- 入力作業者が十分な数確保できない(人がいない、というのと人件費が高いという2つの問題がある)
- データ件数に対して納期が短い
- 業者のPCが古く作業の足をさらに引っ張る
納期通りに仕事を終わらせるために、取られた手は以下のようなもの
- 一部を中国に委託する
- (人手がないので)OCRでデータ化し、ダブルチェックを行わない
中国は大昔と比べ賃金が上昇したとはいえ、日本のそれとは比べ物にならない低賃金を実現することができる。また、「人手」の規模については圧倒的である。
時間と予算が有限ななかで、今回のような「単純作業」の品質と納期をどちらも達成できるのがどちらの国の業者であるかは一目瞭然なのでは。
- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: 単行本
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