読書メモ 世論調査とは何だろうか
ある世代にはおなじみの、NHK週刊こどもニュースでお父さん役を務めていた岩本裕さんの著書
世論調査の歴史を辿りながら、調査の技術、問題点、関連する統計学的知識や認知バイアスについてわかりやすく解説してくれいている一冊。
日本国内だけでなく日本に世論調査をもたらしたアメリカの事例なども数多く紹介している。
「統計で嘘をつく法」と同じく、統計関連のお手軽本として押さえておきたい一冊でもある。
日本における世論調査の変遷と、調査する側が気をつけなければならないこと(それは裏を返せば調査を読み取る側が気をつけないといけないことでもある)を具体的なケースを紹介しながらわかりやすく解説してくれている。2015年に出版された本ということもあり紹介されるケースは記憶に新しいものが多く面白い。
気になったキーワードなど
・世論と輿論
「輿」が新聞で使えなくなったことから、「よ論」とするか別の漢字を当てるかという問題になった。
元々存在した世論という漢字を採用することで、2つの似ているが微妙に異なる熟語がごっちゃになってしまった側面があるのかも。
【従来の意味】
輿論(よろん):今でいう世論。国民による公共の意見。パブリック・オピニオン。
世論:どちらかというと根拠のないデマのようなニュアンス。ポピュラー・センチメンツ(通俗的な感想程度のもの)
※太平洋戦争後、難しく出現頻度の低い漢字の多くが新聞や教科書、公文書で使えなくなり、失われることに(漢字が削減されたのは難しすぎる漢字が国語教育の妨げになるという理由から)
言葉を失うということはその意味を失うということなんですね。
RDDとは
ランダムディジットダイヤリングの略。コンピュータを用いてランダムに電話番号を生成して世論調査の架電リストを作成するようになり、それまで電話帳や住民台帳を元にリストを作成していた頃と比べ物にならないくらい調査機関を短縮できるようになった。
・世論調査では普通、この「確かであろう確率」を95%に設定しています
95%信頼区間。つまりプラマイ5%は誤差があるということ。
・選挙は世論調査の答え合わせができるほぼ唯一の機会
世論調査はあくまでサンプリング調査なので、答え合わせは選挙結果で。
予想が正確だったか、正確でなかった場合、調査方法のどこにに問題があったかなどを検証することができる。
・サンプルの規模≠予測の正確さ
サンプル集団を使った統計手法により母集団の意見を推測するには必要なサンプル規模(大きさ)というものがあるが、必要最低ラインを超えた後は、サンプルサイズをやみくもに大きくすれば精度が上がるかというとそうでもない、という話。
・世論調査の結果≠選挙結果
1936年、1948年のアメリカ大統領選
RDDが導入されて緊急世論調査や月1の世論調査ができるようになったのは小泉内閣の頃から。
その後、第1次安倍内閣から野田政権に至るまで、6人続けて1年前後で政権交代する異常事態となっている。世論調査の頻度が高まったことの影響はゼロではないだろうと言われている。
・支持率20%という魔法の数字
内閣総理大臣は国民の代表であると同時に政党の代表であるため選挙に勝たなければならないという宿命がある。
現在採用されている小選挙区は勢いのある政党が当選しやすく、中選挙区制より政権交代を容易にする性質がある。
・集団的自衛権の世論調査
読売・産経 vs 朝日で反対賛成が分かれた調査。
中間的選択肢により反対賛成を逆転させることができる
国際比較した研究があり、日本人は中間的選択肢を選びやすい(アメリカ、フランス、イギリス、旧西ドイツとの国際比較:統計数理研究所 林知己夫)
普段あまり考えないような事を質問した場合にも中間的選択肢を選ぶ傾向がある(NHK文化研究所)
・日本人の意識調査
40年という長期にわたって同じ質問で調査が継続されている珍しいもの。
日本人のライフスタイルや日本人についての評価、天皇への尊敬心、性に関する意識など。
性に関する意識の違いは完全に世代に依存していることがわかる。
厳格と寛容が逆転するのが1940年代生まれ。この人たちが10〜20代になる1960年代に性に関する開放的な考えがたくさんのメディアで取り上げられた。また、本書には取り上げられていないがお見合い結婚と恋愛結婚の比率が逆転するのも1960年代。
世論調査を読み解く上でも大事なキーワードたち
・有意差
・相関≠因果
・疑似相関
・「生態学的誤謬に気をつけろ」
・平均は代表値ではない。平均値、中央値、最頻値
数字を見るときに大事なポイントと基本的に同じですね。
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